迎え火を焚(た)く                目次に戻る

 ある夏の日、小学校六年生の男の子を診察しました。脾臓が固く大きく腫れていて急性白血病でした。抗がん剤治療などを受けられたのですが、翌年、春を待たずに亡くなられたのでした。小学校の校長先生が「卒業証書」を授与下さり、お子さんの仏壇に供えられたのだそうです。
 他に、脳腫瘍やインフルエンザ心筋炎など、治癒かなわぬ病気で亡くなられた患者(小学生)さんに関わったことがあります。お子さんを失ったご両親のお気持ちには想像を絶するものがあります。
 「逆縁の迎え火を焚く老二人」(田中千之・NHK全国俳句大会入選)という句があります。逆縁とは仏教の言葉で、「死ぬ順番が年の順でなく、逆になってしまうこと」の意味もあります。つまり、「お盆を迎えた老人夫婦が、若くして先立った子供の魂を、天国から迎え入れようとして、迎え火を焚きながら、夕暮れの家の前で立ち続けている」そんな悲しい風景を描いた句です。東京へ行った子供たちが孫を連れて帰って来るというのと訳が違います。極楽大往生を遂げたご先祖様をお迎えしようというのと訳が違います。
 お釈迦様が「人生にはどうすることもできない四つの苦しみがある(生老病死)」と説かれたその一つが「(避けられない)病気」でした。
 「iPS細胞」をはじめとする医学の進歩によっても、未だどうすることもできない病気が多数あります。いつの日か原因が解明され、治療法が開発されることを待たねばなりません。
 さて、「人生はマラソン競争。上手に走りましょう」と言われます。多くの方々の病気(生活習慣病・早期ガンなど)は、努力して予防・改善でき、避けられる病気であって、「苦」ではありません。それなのに、メタボや不摂生を放置して、命を縮めています。緩やかな自殺と同じです。
 具体的には、高血圧、糖尿病、高脂血症、痛風、運動不足、肥満、ストレス、タバコ、飲酒など、切りがありません。これらの生活習慣病は、日々の暮らしの中の原因から発症するものです。また、過塩、過食、運動不足によるものは小児の頃から始まります。
 マラソン競争している自分の走り方が正しいかどうか、採点してくれるのが各種の検診です。積極的に検診を受けられることによって、人生というマラソン競争の勝利者になりたいものです。 

     八戸市の月刊誌「うみねこ」2013年8月 576号 掲載


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